地域の宝を再発見し、
無添加食用油を開発
戸沢村エゴマの会 事務局 田中誠一さん
「これからも無添加の商品を増やしていきたい」
と語る事務局・田中誠一さん。
安全安心な油が欲しい、純粋な想いからスタート
ガタン、ゴトン―香ばしい香りともに流れてくる軽快なリズム。戸沢村エゴマの会の作業場で搾油機がエゴマ油を搾り始める音です。
エゴマ収穫後の焙煎から搾油の一連の作業は、平成15年の会発足当時から事務局を務める田中誠一さんが担当しています。
「最初の頃は品物にばらつきがありましたが、ここ最近は質が良くなっている」と10年来戸沢村のエゴマを見つめ続けてきた田中さんは目を細めます。
一度衰えていたエゴマ栽培が、戸沢村で復興したのは、韓国から嫁いできた女性たちがキムチの材料として育て始めたのがきっかけ。家庭用につくられていたエゴマが、「安全・安心な食用油を自給したい」という農家の有志たちの目に留まり、試験栽培がスタート。
ついにはエゴマ油や加工品を販売する “戸沢村エゴマの会”として本格的な活動が始まったのです。
球形の小さなエゴマの実。生のエゴマを噛んで、その風味で良し悪しが分かると田中さんはいいます。
香ばしいゴマならではの香りが楽しめる無添加エゴマ油。
環境に優しい植物から生まれる、無添加食用油
シソ科に属するエゴマは、ほとんど農薬を使わなくて済み、肥料も米づくりの半分位で充分という優秀選手。さらに、山間部や休耕田を活用した転作にも向いていることから栽培面積が広がり、生産量が伸びました。作る量が増えても、良質なエゴマをつくるためには、「8月中旬のお盆周辺に、実に栄養分を行き渡らせために芽を摘む“摘芯”を手作業で行ったり、収穫後には洗浄を繰り返し、乾燥させるなどの手間が必要」と田中さん。
特に収穫後からの作業がキーポイントとなり、乾燥が足りないとカビ臭さや油があまり絞れないなどの原因につながるといいます。
ちょうど収穫の時期に長雨が降る最上地域では、しっかりと自然乾燥させるのはなかなか大変。加工前にじっくりと焙煎を行い、水分を飛ばしてから搾油機にかけることで、黄金色に輝く無添加のエゴマ油ができあがります。
戸沢村エゴマの会では、香り付けの為ではなく、水分を飛ばし油がよく絞れるように焙煎を行っています。
エゴマ油生産の本場・韓国より輸入した搾油機。600㎏の圧力を掛け搾られていきます。
味良し、香り良し、健康に良しの万能食品
現在、戸沢村エゴマの会では、食用油をはじめ炒りエゴマやドレッシングなど、食指をそそるエゴマ特有の香ばしさを活かした商品が開発されています。それらは、現代人が不足しがちなα-リノレン酸を豊富に含むことから、生活習慣病やアレルギーの改善に期待できるなど注目され、県外からの注文も多いといいます。さらに、商品販売だけに留まらず、よりエゴマに関心を持ってもらえるようにと、数年前から“エゴマオーナー制度”を実施。エゴマのオーナーに申し込んだ方が、摘芯や収穫などの作業に参加し、生産現場に触れることで、生産者と消費者の距離が縮まってきています。
「エゴマの生産者は60歳以上が多い。これから生産量を増やしていくためにも、一緒に油を搾って、将来につなげてくれる若い人が出てきてくれるとうれしいですね」と田中さん。戸沢村エゴマの会の挑戦はまだまだ続きます。
一気に溢れ出たエゴマ油。熱を加えずドレッシングなどに使うと香ばしい香りを堪能できます。
消泡剤を使わず、脱臭・脱色も行わない、無添加のエゴマ油は、黄金色の濃厚な色合いです。
<平成22年11月29日取材>