手づくりの味を大切に
糀文化を伝えていく
代表取締役 佐藤直宥さん
「手をかけた分、よい糀ができるんです」
と糀づくりへの熱意を語る
酢屋吉正 代表取締役の佐藤直宥さん。
地元の食文化から生まれた“南蛮納豆”
川西町で江戸時代後期から続く糀屋を営む有限会社酢屋吉正。ここで、お客様から好評を得てロングセラーとなっているのが“南蛮納豆”です。
昔から川西町周辺の置賜地域では、冬場に食品を日持ちさせるために、糀を使う保存文化があり、糀納豆もその一つでした。もともとあった糀納豆をより食べやすくするには、と考え出されたのがこの“南蛮納豆”だったといいます。
「唐辛子を使ったタレで辛みをつけるというのは当社が最初で、20数年前はかなり突飛な発想だったと思います。抗菌作用のある唐辛子を入れて、納豆臭さを抑えるという考えもあったようです」と佐藤さん。
3~4年もの試行錯誤を経て出来上がった“南蛮納豆”は、1990年東北村おこし物産展で銅賞を受賞し、今や酢屋吉正の看板商品となっています。
南蛮納豆は秘伝のタレを使い、納豆の食感が感じられるよう工夫しています。
特産の紅大豆を活かした商品づくり
酢屋吉正の商品でもう一つ注目したいのが、地元川西町産の紅大豆を使った商品。
「まずは、味噌、煮豆。さらに、紅大豆に親しんでもらえるようにと、100%豆乳アイスクリームも作りました。豆乳アイスは遊び心で作ったんですが、ご好評をいただき全国から注文が来ますね」と話す佐藤さん。
「紅大豆に珍しい紅糀を仕込んだ味噌『吉正』も作っています。紅糀は通常の糀よりも手間暇がかかり、紅大豆は貴重な品のため、この店名を冠した味噌は幻の一品なんです」。紅大豆は他の大豆に比べ、アミノ酸の一種であるギャバが多いため豆そのものが甘く、それが紅大豆ならではの旨みとなっています。
「味が良く、町の貢献のためにも紅大豆を使っていきたい」と地元素材を大切にする佐藤さんの想いにより、素材としての紅大豆の可能性が広がっているようです。
川西町特産の貴重な紅大豆。甘みが特長で、味噌のほか煮豆もおいしい。もちもちっとした煮豆は女性に人気。
紅大豆の煮豆をはじめ、寒仕込味噌、塩こうじ、南蛮納豆など、多彩な商品
手づくり糀と天然醸造へのこだわり
糀は繁殖するときに熱が出るので、40℃になる前に手でほぐして放冷します。それを酢屋吉正では手間暇かけて手作業で行っています。
「小さい頃からよく糀を触っていたので感覚で覚えているんですが、それは機械ではできないんですよね。夜中でも起きて手入れをする。その手間が必要だと思います」と佐藤さん。また、酵母と酵素を添加しない、あくまでも天然醸造を貫いています。
「雑菌の少ない春先や冬場に仕込んで、夏の暑さを利用して熟成させるのが天然醸造。自然の四季を利用して醸造します」というように、通常1年半~3年くらいじっくり寝かせるのがここの味噌の特長。特に首都圏では、最近、糀菌が出す酵素が体に良いと、塩こうじを様々な料理に使うことがブームになっています。
「地元では身近なものが、都会では新しいものとして見てもらえますね。自分の商売を残すのではなく、地方の糀文化を残していきたい」と佐藤さん。酢屋吉正から生み出される新たな商品に今後も期待が膨らみます。
36℃の人肌くらいの温度になるように糀を手でほぐす作業。体に染み込んでいる熟練の感覚で糀を扱います。
米は山形産、大豆は国産を使用。5升枡、1斗枡などの道具類も、蔵と同時期の明治の頃から活躍。
<平成23年12月20日取材>