歴史と手づくりが生み出した、
素材のおいしさ際立つ逸品
代表取締役社長 本間光廣さん
近年の塩分を抑えた漬物は、野菜をおいしく、
かしこく取ることのできる健康食と語る社長・本間光廣さん。
気風と自然が育む伝統の味
酒造りが盛んな鶴岡市大山地区に、創業101年の風格を称えながら佇むつけもの処「本長」。
明治41年、地元の酒蔵から出る良質な酒粕と地域でとれる野菜や山菜を使い漬物づくりが始まりました。
現在は、三代目店主・本間光廣さんが、「良い原料と良い素材からでないと良い漬物は生まれない」という初代からの教えのもと伝統の味を引き継いでいます。
「大山地区には、採算を無視してでも良いものを作ろうとする職人気質の心意気が残っています。
その昔からの生業を大事にする気風と、自然が豊富で食材に恵まれている環境が漬物づくりには最適」と本間さん。本長の近くには、ラムサール条約湿地に認定された上池・下池があり、漬物づくりに欠かせない水にも恵まれています。
大山地区の環境と気風に見守られ、代々続く漬物へのこだわりが受け継がれています。
創業当時の面影をそのままに、平成20年に建てられた新店舗。
創業当初より使い続ける在来野菜
本長の素材には、温海かぶや外内島きゅうり、民田なすなどといった在来野菜が多く見受けられます。
最近注目を浴びている在来野菜ですが、創業100年以上続く本長では、当初より漬物の素材として使用。特に「在来野菜だから使う」という意識ではなく、漬物の素材として相性が良いという理由から選ばれ続けているのです。
地域の風土に根ざした在来野菜は作りやすいばかりか、環境に負担を掛けないという理にかなった食材。
さらに、酒粕は地域の酒屋のものを使い、米糠は米どころである地元・庄内産の無農薬米のものを使うなど、原料も素材も一切妥協がありません。
また一方で、漬物づくりで在来野菜を使い続けたことが、絶滅寸前の在来野菜を救い、復興にも一役買ったといいます。
時代にあわせて無理に変えていくのではなく、真摯に漬物づくりを続けた結果、時代と即したかたちとなり、さらに伝統を守り抜く良い連鎖へとつながっているようです。
はりはり漬けの素材として天日のもと寒風に晒された小真木大根。
木製の樽で漬け込みを行っています。中には200年近く前の樽もあります。
五感を使った手づくりへのこだわり
味わい深い漬物をつくるには、それぞれの素材によって漬け方や粕の量を変えるなど繊細な作業が要求されます。「常に漬物と向き合い、心配りができることが大事。直接口に入るものなので、触れてみたり嗅いでみたり、五感を使って確かめることが必要になります。それができるのは、やはり手作業なんです」と本間さんが言うように「本長」での作業の基本は手作業。
伝統の味を蓄積するため科学分析を導入しながらも、決してデータだけに頼らず、念入りな気配りを心掛け手作業での感覚も大切にしています。
「これからは、山形の漬物文化と漬物の良さをもっと認識してもらえるようにしたい」と本間さん。漬物をもっと身近な存在として感じてほしいと、食材が豊富な山形の特長をいかした漬物づくりは続きます。
40年以上漬物づくりに携わる山崎さんをはじめ、漬物のプロが手作業で行っています。
素材一つひとつの感触をたしかめながら漬け込まれます。
<2009年12月10日取材>