小野川に冬の到来を告げる
温泉郷の在来農作物
鈴木 巌 さん(米沢市)
小野川温泉の歴史と風土が育む豆もやし
“米沢の奥座敷”と呼ばれる小野川温泉。小野小町にゆかりあるこの温泉郷では、温泉の湯熱を利用した小野川豆もやしの栽培が盛んです。
冬の長い期間、雪に閉ざされる山形県内でも有数の豪雪地帯の特性を活かし、冬期でも栽培できる豆もやしが導入されたのは明治時代。大正12年に「小野川豆もやし業組合」が結成され、共同で生産されるようになりました。
「在来種の小野川豆もやしは、私たちが普段見かける緑豆もやしの3倍ほどの長さがあります。見た目だけでなく、シャキシャキとした歯ごたえと、大豆の甘みと香りが特徴。おひたしや鍋をはじめ、置賜の郷土料理“冷や汁”の具としてなど、さまざまな食べ方で親しまれています」と語るのは、小野川豆もやしづくり5代目の鈴木巌さん。
市販の緑豆もやしは9センチ前後に対し、小野川豆もやしは27センチほど。
甘み、旨み、そして食感は緑豆もやしとも別。ほかの野菜と合わせておひたしにしても。
温泉街に流れる川の砂で栄養を摂り、湯熱で育ち、温泉のお湯で洗う
小野川豆もやしは、温泉ならではの栽培方法。温泉のお湯を通す水路と小川の水温を調節し、栽培小屋へと導きます。小屋には室(むろ)と呼ばれる木箱があり、水耕栽培ならぬ“砂”で栽培します。湯熱で温められた室の中に砂を敷き詰め大豆をのせ、しっかりと藁で覆います。朝晩必ず室の温度管理のため、見回りをかかしません。その作業を繰り返した7日目の朝、大きく育った豆もやしを収穫します。
「でも本当に大変なのはその原料である大豆を春から秋にかけて育てること。いい大豆を収穫するためにはできるだけ手作業です。繁忙期には知人の家族にも手伝ってもらいます」。
流れてくる温泉の湯は水路の水で温度を調節。
肥料は使用せず、ミネラルなどの栄養たっぷりの温泉水砂で育つ豆もやし。
昔と全く変わらない栽培方法は先人の知恵
多いときは70戸ほどあった豆もやし農家も、現在は2軒のみとなったそうです。
採算が合わないくらい手間はかかっているにもかかわらず、小野川豆もやしをつくり続けるのは郷土の文化として大切にしたいからと鈴木さんは言います。
「関東の料理人から小野川豆もやしは炊き込みご飯や、巾着に詰めたおでんの具としても人気だと聞きました。創作料理としても全国の方に喜んで食べてもらえるのは何よりも嬉しいですね」と鈴木さんは笑顔で話します。
小野川豆もやしは、今では全国で愛される冬の味覚に。アンテナショップの店頭(12月中旬~2月中旬)や「まるごと山形」(https://yamagatamaru.jp/)の通信販売でも手に入るので、シャキシャキで濃厚な小野川豆もやしの味わいを、みなさんもぜひ堪能してください。
奥さまや数名のスタッフと一緒に、大豆の栽培から豆もやしの出荷までを手掛けています。
朝の5時から7時までに豆もやしを収穫。その後の出荷作業も、午前中のうちに手作業で行われています。